ルノワール64点、日本近代洋画36点、印象派作品18点――総計118点の出品リストが完成しました。
最後まで残っていたのは、1年におよぶ交渉を続けた企業コレクションのルノワール3作品と、関西の公立美術館にお願いしていた佐伯祐三作品です。いずれも、この4月、ようやくご承諾をいただきました。
2年前の2月、「ゼロ」から始まった出品交渉が、「118」という数字になりました。一点一点、所蔵先にお願いを重ねながら積み上げていく――それが今回のような企画展の出品交渉です。無から展示を立ち上げていく過程こそ、企画展の醍醐味だと思っています。展覧会の趣旨に賛同していただき、多くの貴重な作品が今回のリストに加わりました。
【出品交渉スタート】
2024年の夏から秋にかけて、5会場を巡回する展覧会の枠組みが固まってきました。いわば「袋」ができあがり、そこへ入れる中身――展示作品を集めていく作業が始まります。
まず取りかかったのは、ルノワール作品を所蔵する美術館や企業コレクションの洗い出しでした。全国およそ40か所のリストを作成し、ルノワール作品を多く所蔵する館を中心に、幹事館である熊本県立美術館と手分けして交渉を始めました。
長いお付き合いのある美術館には、まず企画書を送り、電話でご説明します。「当面貸し出し予定もないし、趣旨にも賛同します」と、比較的早い段階でご快諾いただけた館もありました。
一方、しばらくお会いしていない館には直接ご説明に伺います。初めてご連絡する所蔵者には、まず企画書を添えて手紙を送り、その後、直接お会いして借用をお願いします。この直接の出品交渉は、2024年2月、鹿児島からスタートしました。
特に多くのルノワール作品を所蔵する館へは、できるだけ早い段階で足を運びます。そのひとつである箱根のポーラ美術館には2024年6月に最初の交渉に伺いました。
また、個人所蔵作品の情報を持つ大手画廊にも足を運びました。ところが、この「個人所蔵」がなかなか難しいのです。以前は、「ぜひ展覧会に出して、多くの人に見てもらいたい」と考えるコレクターも少なくありませんでした。しかし近年は、そうした流れも変わってきているようです。日本最大手の画廊の社長にご相談した際も、残念ながら色よい返事はいただけませんでした。
出品交渉のやり方は、人によってさまざまだと思います。私の場合、まずは手紙やメールで企画書を送り、そのうえでアポイントをお願いします。
お会いいただける時点で、少なくとも「話を聞いてみよう」と思ってくださっている。それは大きな一歩です。手土産のお菓子を持参し、展覧会の趣旨や「なぜこの作品をお借りしたいのか」を丁寧に説明します。「この作品が今回の展覧会には欠かせないのです」とお話しするわけです。
ですが、話を聞いていただけたからといって、必ずしも承諾いただけるわけではありません。「今回はごめんなさい」と、お断りされた所蔵者もありました。
【苦戦した企業コレクション】
今回、特に厳しかったのが企業コレクションとの交渉でした。以前はお借りできていたところも、近年は方針変更や施設再編などで状況が大きく変わっていました。
ある放送局のコレクションは、系列局が主催に入っていないと貸し出しが難しい。ある企業コレクションは、新たに開業するホテルに併設する美術館に作品を展示する予定があるため難しい。東北の美術館に寄託されている有名企業コレクションも、新たな文化施設への移管計画があり、借用は叶いませんでした。
すでに報道されているので名前を挙げますが、 DIC川村記念美術館 は、千葉から東京への縮小移転が決まり、所蔵していたルノワール作品も売却されてしまいました。かつてモネやシャガール作品をお借りしたこともあり、素晴らしいルノワール作品を所蔵されていただけに、とても残念でした。
それでも、企業コレクションからのご協力がまったく得られなかったわけではありません。丸紅、ウッドワン、メナード、カトーレックなど、多くの企業コレクションにご賛同いただきました。特に何度も足を運んだポーラ美術館からは、11点もの作品をお借りすることができました。
嬉しかったのは、これまであまり展覧会に出品されることがなかった山田養蜂場所蔵の秀逸なルノワール作品をお借りできたことです。岡山駅から電車で1時間半の津山駅へ。そこからタクシーで30分。2度にわたり本社へ足を運び交渉した甲斐がありました。
電話やメールで断られても、「まだ可能性がある」と感じた場合は、簡単にはあきらめません。直接お会いしてお願いしようと考えます。それが実を結んだのが、関西のある公立美術館でした。結果的に、ルノワールとモネの作品について出品承諾をいただくことができました。
交渉を重ねるほど、作品を長期間お借りする責任の重さを、あらためて感じるようになります。交渉相手のお顔を思い浮かべながら、「必ず無事にお返ししなければな らない」と気持ちが引き締まっていくのです。
【最終調整】
1年前の今ごろは、ルノワールの影響を受けた日本の画家たちの作品について、最後の調整が続いていました。こちらは主に熊本県立美術館に担当していただきました。
なかでも嬉しかったのは、重要文化財に指定されている中村彜作『エロシェンコ氏の像』 (東京国立近代美術館蔵)の出品が決まったことです。
昨年秋ごろには、出品リストのおよそ9割が固まりました。その段階で、5会場それぞれのバランスを確認していきます。会場によっては、ルノワール作品が少ないところがありました。そこで、ネットワークを通じて新たなルノワール作品所蔵者の情報を探りました。運よく、ある個人コレクターの存在が浮かび上がり、紹介を通じて6点もの出品の承諾をいただきました。
そして冒頭で触れた通り、総計118点。各会場にはそれぞれ全部でおよそ80点、そのうちルノワール作品を40点ほど揃えることができたのです。
その後、各所蔵者へ開催館館長名で正式なお願い状を送り、承諾のお返事をいただいて、ようやく出品リストは最終確定となります。
次に待っているのは、展覧会にとってもうひとつの大きな仕事――図録制作です。
1冊の本をつくるわけですから、こちらも簡単ではありません。どのような図録にするのかを監修者や幹事館と協議し、構成を固め、各方面へ原稿を依頼していきます。今はまさに、その真っただ中です。開幕(7月18日、熊本県立美術館)まで残り2か月。展覧会が形になるまで、まだまだ多くの仕事が続きます。(つづく)
筆者:のぎめてんもく
